ベトナム人技能実習生への監理団体による入国後講習で、「日本ではたらくベトナム人のための健康ハンドブック」を使ってセミナーを実施しました!

2024年4月、公益社団法人国際人材革新機構(以下、iforce)が実施するベトナム人技能実習生を対象とした入国後講習の一部として、『日本ではたらく外国人のこころや体の悩みに〜けんこうハンドブック〜』と題し、セミナーを実施しました(岡山市iJC (iforce Japanese Language Centerにて)。MINNAから4名のメンバーが参加しました。

開催のきっかけ、開催概要

開催のきっかけは、2024年2月13日に開催されたシンポジウム「外国人技能実習生の健康支援を考える」(主催:iforce、助成:日本財団)に登壇した際、iforce理事の西本氏より、ハンドブックを入国後講習で配布すると効果的ではないかとアドバイスいただいたことでした。

入国後講習とは、外国人技能実習生が日本に入国後、企業での実習に入る前に必ず受講しなければならない講習のことで、法令で義務付けられています。日本語、日本の生活におけるルールやマナーなどを学びます。期間は1〜2ヶ月程度で、1番意欲が高い時期なので、教育または周知活動をするなら、1番いいタイミングと言われています。

セミナーには、ベトナム人技能実習生23名と西本氏他、iforceの職員2名にご参加いただきました。ハンドブックの内容や、どんな場面でハンドブックが使えるかを、事例とともにお話をしました。

健康を理由に途中で帰国する技能実習生の実態

参加した技能実習生は全員20代と若く「健康について困ったら、病気になったら」と言われてもピンとこないだろうと考え、導入として、健康を理由に途中で帰国した技能実習生の実態を説明しました。外国人技能実習機構(OTIT)によると、2021年に健康を理由に途中で帰国した技能実習生の数は7,101人です(内訳はスライド参照)。この数以外にも予期せぬ妊娠で帰国した人がいます。

参加者は数を聞いてちょっとびっくりした表情を浮かべていました。

出典:外国人技能実習機構.令和3年度業務統計.受入形態別 事由別. 技能実習実施困難時届出

健康に過ごすための情報がつまったハンドブックの紹介

元気で幸せに日本に暮らし、任期を全うして帰国するには健康は必須です。

では、健康とはどういう状態をさすのか、WHOの健康の定義「健康とは、病気でないとか、弱っていないということではなく、肉体的にも、精神的にも、そして社会的にも、すべてが満たされた状態にあること」をわかりやすく説明しました。

そして、参加者のみなさんに、病気やケガをしたらどうしたらいいか、日本の病院の仕組みや保険はどうなっているのか等について、「正しい情報を知りたくないですか?」と問いかけました。

ここで、日本ではたらくベトナム人のための健康ハンドブックの紹介です!

主な特徴は以下の通りです。

  • 5つの章で構成(①クリニック・病院の使い方、②感染症、③セクシュアル・リプロダクティブヘルス、④産業保健、⑤メンタルヘルス)、
  • 各章には、専門相談窓口のリンクのQRコード、ホットライン番号を掲載、
  • 中学卒業レベルでも理解できる内容とし、Q&A方式、キャラクターを活用、
  • 周囲の日本語がわかる人の支援が得られるようにベトナム語と日本語の2言語併記。

みなさん真剣に読んでくれています(写真)

どんなときに役に立つ?事例をもとにハンドブックの内容を紹介

次に、具体的な事例を3つ(結核、労災、妊娠・出産)紹介しました。

これらの事例を選んだ理由として、国内で外国出生結核患者が増加するなか、ベトナム出生結核患者が上位を占めること[結核予防会結核研究所疫学情報センター. 年報2022年結核発生動向概況・外国生まれ結核]、外国人の労働災害は20代の技能実習生に多いこと(図1)、妊娠・出産は望む妊娠でも予期しない妊娠でも多くの問題があること等が挙げられます。いずれの場合も必ず帰国となるわけではなく、相談先があることを知ってもらうことが重要です。

図1.主な滞在資格別の年齢別外国人労災数(令和元〜2年の合計)
出典: 山田秀臣.外国人の労働災害の近年の傾向について.日本渡航医学会誌 Vol.17/No. 2,2023

具体的な事例あげて、どのように対応したらよいのかをお話ししました。

まず、【Case1. 結核】です。

事例紹介後、「結核と診断されたら帰国しないといけないと思いますか?」との問いかけに、23名全員が「はい、そう思います」と答えました。理由を聞くと、「人から人にうつる病気で治療が難しい」「治らないから」と言った答えが返ってきました。ハンドブックの該当箇所を示しながら、結核は治療可能な病気で、仕事を辞める必要はなく、治療をしながら仕事を続けられることを伝えました。また、参加者からハンドブックのわかりにくいところを教えてもらうことができました。

次に、【Case 2. 労災について】です。

事例紹介後、「健康保険と労災保険の違いはわかりますか?」と質問すると、半分くらいの人が知っていると回答しました。大事なポイントとして、カバーされる項目が違うこと、健康保険は3割費用負担が必要ですが、労災保険は業務上の怪我などについて会社が全部支払ってくれること、を説明しました。

最後に、【Case 3. 妊娠・出産について】です。

事例紹介後、私たちから「妊娠したら帰らなければいけないと思いますか?」と質問すると、全員が「はい!」と答えました(写真右上)。そこで、日本では妊娠を理由に解雇することが法律で禁止されていること、一時的に実習を中断して出産後に再開できることを説明しました。 ただし、技能実習を中断した人のうち、実習を再開できたのは約2%にとどまるという報告があることも伝えました(厚生労働省調べ)。伝え方が難しいところですが、まだ妊娠したくないと思う場合や自分を守るためにも避妊が大切なこと(感染症予防にも重要!)、日本とベトナムの避妊方法の違い、ベトナムからもってきた薬をのんで中絶すると日本の法律で罰せられてしまうことを説明しました。そして、とにかくはやく相談することが重要であることをハンドブックの相談先情報とともに伝えました。

実は、この妊娠・出産のパートは、iforceのみなさんとの事前打合わせで、とくに強調してほしいと要望をいただいたところでした。これまでのご経験から、本人も周囲も予期しない突然出産のケースがあり、トラブルに発展しやすいことを伺いました。理由は、言えなかった、気づかなかった、帰国させられるのではないかと思った、などですが、“妊娠・出産が働く人の基本的な権利と法律で認められている”ということ自体が理解できない人も多いそうです。iforceとしては、「気づいたときに相談してほしい。そうすれば、一緒に考えていくことができる」と考えていました。地方では産科医療の集約化により出産する施設までの距離が遠くなりすぐに施設にたどり着けない、病院側にとってはリスクの高い飛び込み出産になってしまう、妊婦健診を受けていないのでネグレクトが生じる可能性があるされ児童相談所の対応ケースになってしまう、と言った課題があることを教えてくださいました。

妊娠・出産の章だけでなくセミナー全体をとおして、困った時にはあきらめずに相談することが大切であること、自宅で繰り返し見て知人や友人にも勧めてほしいことを伝えました。

今後に向けて

実施後の振り返りで、iforce西本氏より、「これまで説明していたことが十分理解されていないことがわかりました。母国語が併記された技能実習生手帳を使ってOTITの母国語相談を紹介していますが、認知していませんでした。難しい書き方だからでしょうか。妊娠・出産に関しては法的保護講習で専門家からも聞いているはずですが、伝え方の問題なのか、もともとの認識が強いからなのか、伝えたつもりが伝わっていないことを改めて感じました。伝え方を工夫したいと思います。ワークショップ形式で一人ひとりが考える、今回のような方法は良いと思いました。」と感想をいただきました。

また、「結核になったら帰国させられる」と参加者全員が考えていたことには、iforceの皆さまだけでなく、私たちもびっくりしました。結核は治らない病気という認識が、母国の社会で根強く拡がったままなのかもしれないと話し合いました。

今後は、ハンドブックの活用方法・有用性等に関する理解促進に向けて、監理団体による入国後講習や、送り出し国における出発前研修の一部として活用してもらうためのモジュール化等が検討できるのではないかと考えています。 (神田未和)

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