【イベントレポート】『第4回 医療者向け外国人診療向上ワークショップ』が浜松市で開催されました!

MINNAメンバーである家庭医の弓野さんは、昨年から医療従事者を対象に、外国人診療の質向上を目指したワークショップを、当事者や支援者と共に開催してきました。4回目の舞台は学術大会。弓野さんが座長となるWSに、MINNAメンバー3名も応援に駆けつけました。

出典:https://plaza.umin.ac.jp/jpca2024/program/idx03.html

開催概要

2024年6月9日、第15回日本プライマリ・ケア連合学会学術大会にて、「地域の医療・行政・当事者支援団体の連携で、外国人診療向上を目指そう!」と題し、対面で開催されました。当日は、臨床、地域保健、研究活動で日々外国人患者さんの対応にあたる医療従事者80名以上が集まり、立ち見が出るほどの盛り上がりとなりました!

WSの目的:

  1. 症例を通じて外国人患者の病気と生活背景への理解を深め、外国人当事者−支援者−医療者−外国人相談窓口担当者が、それぞれの活動と抱えている困りごとを共有し理解し合う。
  2. 今後、それぞれの現場で外国人の健康に関する相談が生じた際に、互いに信頼できる相談先や協力先として連携できるようなきっかけをつくる場とする。

当日のスケジュール

  1. 3つの症例が紹介され、1組7人程でグループディスカッション、
  2. 各グループのディスカッション内容を全体に共有
  3. ブラジル・ベトナム・フィリピンコミュニティの当事者や支援者からの発表
  4. 静岡県国際交流協会(外国人相談窓口)からの発表
  5. 全体ディスカッション+ 外国人医療についての解説
  6. まとめ

<↓↓第1回目の様子はこちら↓↓>

掛川で外国人診療向上ワークショップを開催しました

10月26日午後3時〜午後5時まで、掛川の中東遠総合医療センターにて、浜松医科大学 地域家庭医療学講座と共催して、医師対象の外国人診療向上ワークショップを行いました。…

多様なメンバーで構成された開催チーム!

演者含む開催者の人数はなんと25名!!弓野さんの尽力で、多様なメンバーが集まりました。静岡県における外国人診療向上への関心度の高さが伺えます。

開催に関わったメンバーら

グループディスカッション「こんな患者さんが来たら、あなたはどうしますか?」

今回のキーとなる3つの事例が紹介されました。どの症例も興味深い…。

そして、8つのグループに分かれてディスカッションを行いました。

筆者がファシリテーターをつとめた「症例2:ベトナム」グループでは、医師(総合病院、地域のクリニック)、研修医、地域のクリニックの看護師、保健師、大学の先生で構成。地域のクリニックの医師は、長年、浜松で外国人診療に携わっている方で、類似経験があり、その共有がなされ、活発なディスカッションとなりました。

「症例2:ベトナムグループ」で話し合われていたこと

  • 時間をかけるべき事例とそうでない事例があるが、これは時間をかけるべき難しい事例。
  • 勤務先の上役には伝ない方がよさそうなので、この日は便秘として帰宅してもらい、また来てもらえるようにするのがいいかも。
  • 次回、上役がいない状況で、本人と相手との関係や出産の希望をきき、今後の話をしたい。男性への聞き取りもしたい。通訳も準備する必要がある。

全体共有では、日本で働くベトナム人医師から、ベトナムでは経口中絶薬が薬局で安価に購入できること、それを日本で使用し中絶すると「堕胎罪」になることなど、制度の違いや実際に起きたケースが共有されました。参加者から、「ベトナムで経口中絶薬がそんなに簡単に手に入るなんて知らなかった。機械翻訳だけでなく文化的背景がわかる人が通訳するのは大事ですね。」といったコメントが寄せられました。

当事者や支援者を通じて、外国人患者の生活背景への理解を深める

グループディスカッションで、外国人の社会的背景が多様であると気づきを得たところで、在日ブラジル、ベトナム、フィリピンのコミュニティ当事者や支援者から、各国の文化、食生活、日本で直面する医療における困難に関する報告がありました。

言語だけでなく文化や制度も壁を乗り越える「医療通訳」

静岡県国際交流協会による、県内の外国人住民や外国人労働者の状況です。

  • 県内の外国人住民数は11万人。全国で8番目に多い。 
  • 定住外国人は7万2千人で、在留外国人の65%(全国1位)を占める。
  • 外国人労働者数は74,859人。全国7位。国籍別では、ブラジル、フィリピン、ベトナムの順に多い。
  • 外国人労働者のうち、派遣・請負に就労している外国人労働者数は、 30,728人(全国2位)、41%(全国2位)

静岡県国際交流協会は、県内の外国人患者の医療アクセス向上を目的として、医療通訳紹介事業を実施しています。医療機関等からの依頼に基づき、知識・スキルを持った医療通訳者を紹介しています(費用は医療機関が負担)。この事業は、言語の壁により適切な医療を受けることが難しい外国人と医療機関をつなぐ重要な役割を果たしています。同時に、外国人患者の背景を理解し、日本の医療従事者にその情報を伝えることで、文化的な壁も乗り越えています

地域の医療・行政・当事者支援団体の連携で、外国人診療向上を目指そう!

全体ディスカッションでは、医療通訳サービスの費用が診療報酬に含まれていない課題や医療現場の実情も話題に上がりました。

長年、神奈川で外国人診療に取組む、MINNAメンバーでもある沢田さん(港区診療所 所長)は、参加者に向けて、「静岡県は、外国出身の方々への対応を進めてきたネットワークや人材など、地域としての対応力がすばらしいと思います。それぞれの場所で外国人に出会い、理想とする医療を提供できないことにフラストレーションを感じている人は多いでしょう。相談先がどこなのか、地域によって状況も異なります。答えは簡単には見つからないかもしれませんが、どのような資源があり、どんな事例があって、これまでどのような解決策が取られてきたかを知ることは大いに参考になります。」と話されました。

最後に、弓野さんから外国人医療の解説として、外国人住民のちからと豊かさについて改めて説明があり、「医療アクセスの壁を超える為の重要なパートナー」であることが強調されました。

振り返りと今後に向けた豊富

実施後、弓野さんは、以下のように話されていました。

弓野さん

静岡の皆様とのご縁を考えると、2023年の第1回 掛川WSから1年に及ぶ準備やつながりが実って、WSも学会自体もとても盛り上がり良かったです。外国人の健康に興味を持つプライマリ・ケア関連の医療従事者がこんなにいるんだ、ということが分かり、私にとって希望でした。皆さんにもなにか励ましになることがあると良いと思っています。

ブラジルを担当した西川さんから、感想が寄せられました。

西川さん

「当日は、座りきれず立ち見がでるほどの方がご参加くださりとても嬉しかったです。発表は静岡のブラジル人の現状を知ってもらえるように考えました。一般的なブラジル人の食生活やメタボ基準の違いなど、分かりやすく説明できたかと思います。と言うのも結構皆さんも笑ってくれたりして、反応が良かったからです。日頃自分が医療機関に感じている、「2時間待って、10分。あまり話しも聞かれず、あっさり診断されて薬を処方されて終わり」というイメージから、医師・医療機関の方々は、『外国人は、通訳が入ると数倍時間がかかる、お金を持っているかも不明、在留資格とか余計なことまで気にしないといけない=お金にならない=避けたい』と厄介に思われていると『勝手に?』思っていたので、多くの方に参加していただいて、とても驚きもしましたし、こんなに外国人のことを考えてくれている医療関係者がいることに感激もしました。医療通訳や在留資格による医療費の支払い問題、労災隠し、DVなど、まだまだ多くの壁が存在しますが、こうした方々のご尽力でいつかなくなる日が来ることを望みます。」

ベトナムを担当したニュンさんからのメッセージ。

ニュンさん

ベトナム人をはじめ、外国人がより日本に住みやすいように、誰一人取り残さない医療の為に、医療従事者・行政機関・外国人のコミュニティの連結が必要不可欠となります。ワークショップに参加した方々が、どうしたら国籍を問わずみんなの医療を築く事ができるか、熱心に意見交換して下さいました。今後もこのようなワークショップがたくさん計画して頂けたら嬉しいです。

先進的な外国人集住自治体として名高い浜松市で、外国人医療に関わる人が集まり、今回のWSを通じてさまざまな意見交換によって、今後の進め方についても洞察が深まったのではないでしょうか。

 弓野さんから、今後の抱負として、「外国人の健康に興味がある、外国人当事者・医療者・支援者の方が気軽に参加できるグループを作り、定期的な交流や学びの場を設けること、そしてそのグループから、より多くの人たちにこのテーマに関心を持ち関わってもらうためのイベント・プロジェクトのアイデアと実行メンバーが出てくるように出来たらと願っています。また活動を報告させてください。」と語られました。

これまで、保健医療サービスへのアクセスが難しい背景を説明する際、私は『文化の違いを理解して乗り越えよう』と話していながら、その文化を『誰とどのように形成していくのか』を十分に考慮できていなかったことに気づきました。弓野さんたちの今後の活動もたのしみです。(神田未和)

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